浮気相手の配偶者から慰謝料請求を受けた場合

1 既婚者と不貞(不倫)をし、その配偶者から慰謝料請求を受けたら

YB1_7939不貞が発覚し、相手方から慰謝料の請求を受けた場合、不貞をしたことは間違いない、という場合は慎重に対応を考える必要があります。

不貞相手への慰謝料請求をするに至った不倫相手配偶者は、多くの場合不倫相手に対して非常に強い憤りや敵対心を抱いています。初期の対応を誤り相手の感情を害してしまうと、話し合いでの解決が困難になってしまいます。

2 誰からの請求かを確認する

法的な意味での請求の主体は不倫相手の配偶者であるとしても、アプローチの方法は様々です。配偶者本人からの直接の電話や訪問といった方法の場合もありますが、文書等で連絡が来た場合、その文書を誰が作成したのか、ということは、対応を決定する上で非常に重要な要素となります。

ア 配偶者本人名義

電話等の他、配偶者本人から文書で謝罪要求や接触禁止、慰謝料請求等がされることもよくあります。直接本人が表に出てきているので、感情的な要求がされる可能性がありますし、相手の感情を害するような不用意な発言をすると話が壊れてしまう可能性があります。

文書の名義が本人でも、弁護士など専門家に相談の上内容自体は専門家が作成しているということもあり、感情的な表現が控えめな文書が届くこともありますが、その場合も協議の相手は本人になるという場合、相手の感情面への注意が必要なのは変わりありません。

また暴力的である、手段を選ばない、など相手方の性格次第では非常に危険でもあります。

イ 弁護士・行政書士などの名義

弁護士などが文書の送付を行っている場合、相手との間に専門家が入ることで、極端に感情的な要求や職場への訪問といった迷惑な行動は抑えられます。

この場合、相手は専門家に依頼している以上、それだけ請求に対し本気であるということでもあるので、相手方の請求書に対して回答を返さない、法的な根拠なしに一切応じられないと拒否してしまうなど交渉決裂の場合には、その後裁判になることが予想されます。過剰な要求にそのまま応じる必要はありませんが、慰謝料額については相応の支払いを覚悟し如何に金額を抑えるかに重点を置いていくことになります。

ウ 裁判所からの訴状送達

既に相手方は裁判を起こしている状態で、裁判の場合相手方の主張に対し反論をしないとそのまま相手の言い分で判決がされてしまいますので、直ちに対応する必要があります。

 

3 事実関係の確認

通常、請求書の内容には慰謝料請求の根拠として不貞の事実があったこと、その時期など一部事実関係が記載されているのが通常ですが、不貞があったこと自体は間違いないものの、具体的な事実関係が異なる、ということもあります。相手方がどの程度事情を把握しているのか、誤解に基づく請求を受けている部分があるのか、といった点はどのような対応をするのかに関わりますので把握しておく必要があります。

4 対応を考える

相手方の状況、言い分を理解した上で、相手方に対してどのような対応をするか方針を検討していくことになります。

ア 請求を拒絶する

相手方の請求を拒絶する場合、話し合いでの解決がなされないことになります。相手方は請求をあきらめない場合は訴訟などによる対応をすることになりますので、以下に記載のような支払いをしないことに正当性がある場合、事情を相手に説明する必要があります。

訴訟では、裁判所が証拠に基づき事情を判断し、賠償義務の有無や金額を判断しますが、例えば以下のような場合には、賠償義務が否定されます。

①不貞の事実が無い場合
そもそも、不倫関係自体が無ければ、法的に賠償義務は生じません。請求を受けた側が自身の潔白を証明するのではなく、賠償を求める側が証拠により不貞の事実を立証しなければなりませんので、不貞の事実が無く証明できなければ支払いの必要はないということになります。ここでいう不貞とは、肉体関係を持つことですので、一緒に食事に行く、といった程度では不貞とはなりません。


②相手方が既婚者であると知らず、容易に知り得なかった場合
相手方が未婚であると信じて交際していたような場合も賠償義務は生じません。もっとも、結婚指輪をしていた、職場の同僚で家族の話も出ていた、メールのやり取りの中で既婚と分かるような文面があった、など通常であれば既婚であるとわかってしかるべき、という場合は知らなかったという言い分は通りません。

③既に時効で慰謝料請求権が消滅している
慰謝料請求権も法律上の権利(債権)であり、時効にかかり消滅することがあります。通常、不倫関係の終了または相手方が不倫の事実を知った時のいずれか遅い方から数えて3年経過すると、慰謝料請求権は時効により消滅することになります。

④不貞行為時点で、既に夫婦関係が破綻していた
夫婦の関係を害する、という点が不貞行為に慰謝料が認められる理由ですので、不貞の有無に関係なく既に夫婦関係は破綻していたというような場合、慰謝料請求が否定されることになります。

もっとも、ここでいう破綻はそれ自体離婚の理由になるほどの重大で回復不能なものである必要があり、長期の別居などの事情が必要で、単に喧嘩をして夫婦関係が一時悪化していた、等の事情があったとしても破綻とは認められません。

イ 減額を求める

不貞の事実自体がある場合、例外的な場合を除き法的には賠償義務を負うことになります。互いに様々な事情があり言いたいことがあるとしても、明確な根拠なく感情的に言いたいことを言って請求を拒否してしまうと、相手方の感情をさらに悪化させることになってしまいます。

自身に賠償の義務があることを踏まえた上で、相手方の要求が不当に高額であったり、経済的に支払いができないといった場合も含め、支払いの減額を求めることが建設的です。

5 相手に対して回答する

以上のような事情を踏まえ、相手方に対し自身の意向を伝えます。
弁護士などが間に入っている場合はそれほどでもありませんが、特に本人に直接回答をする場合は相手の感情を害さないように、しかし自身の言い分は伝える必要があり、細心の注意が必要です。

請求に応じられないのであればその根拠や理由を明確にし、また減額を求める場合も、支払う側からすれば金額が低いに越したことはないのですが、話し合いをするためには相手が納得する金額を支払う必要があります。あまりに低い金額では相手も納得しませんので、実際にどの程度の支払いができるのかを踏まえ良く考えて回答をする必要があります。

6 その後の流れ

相手方と協議を行い、互いに納得して協議が成立すれば合意書を交わすことになります。支払側としては、これで紛争を終了にしたい、今後さらに請求を受けたりしては困ってしまいますので、必ず当該不貞の紛争についてはこれで互いに債権債務なし、という条項(清算条項)を入れるようにします。

協議がまとまらない場合は、相手方が請求を諦めない限り、裁判を起こされることになります。時間も手間もかかってしまい、また裁判は公開の法廷で行われるため不貞の事実が公にされてしまう、といったデメリットもあります。

なるべくであれば協議での解決が望ましいところですが、そのためには初期の対応で失敗しないことが非常に重要であると言えます。


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